深山桜

 

 

 

深山桜よ 君は解るかい

この深く刻まれた哀しみを

ここにひとりで 佇み泣いた

哀しみの花を咲かせておくれ

 

 

人里遠き山の奥 桜の傍の祠で

私はいつもひとりぼっちだった

 

訪れる人間(ヒト)も居らず この桜だけが支え

まだ淡い空仰いで 春の香りを待つ

 

深山桜よ 君は解るかい

この深く刻まれた哀しみを

ここにひとりで 佇み泣いた

哀しみの花を咲かせておくれ

 

 

 

 

人里遠き山の奥 迷い込みし人間の娘 

道を教えた ただそれだけなのに

 

幾度訪れる娘と 心を通わせる日々

夢か現か ただ楽しかった

 

いつしか年月過ぎて 娘だけが老いてゆく

人にあらざるこの憂き身は 朽ちることも叶わぬ

 

深山桜よ 君は解るかい

この胸に芽吹いた愛しみを

人の浮き世は脆く儚く

妖の私には触れられぬ

 

 

信じていた ずっと続くと

あの人間はもう 来ない

 

 

深山桜よ もう一度だけ

あの人間に逢うことができたなら

叶わぬ願い 止まらぬ涙

その花吹雪で隠しておくれ

 

深山桜よ 君は解るかい

この深く刻まれた哀しみを

ここにひとりで 佇み泣いた

哀しみの花を咲かせておくれ